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本学学生が「秋田県若者チャレンジ」支援事業に採択
本学在学中の稲川 拓実(いなかわ たくみ、2019年入学)さんが取り組む「キノコの廃菌床を活用した生分解可能な緩衝材の製造販売事業」が、ビジネスコンテスト「秋田県若者チャレンジ応援事業(以下、「若チャレ」)」に採択されました。若チャレは、若者の起業を応援する秋田県の事業で、地域活性化に貢献できるアイデアを支援しており、採択者にはスキルアップや起業準備に必要な経費助成、専門家によるメンタリングなどの手厚い支援が行われます。
今回は、稲川さんがこのプロジェクトに参加したきっかけや経緯についてお話を聞きました。
キノコとの出会い
稲川:私が取り組んだ「キノコの廃菌床を活用した生分解可能な緩衝材の製造販売事業」は、しいたけ栽培で使用され大量に廃棄される菌床(きんしょう)を再利用し、梱包に利用する緩衝材をつくるプロジェクトです。「なぜキノコを?」と思われる方も多いと思います。
プロジェクトが始まったきっかけはAIUで「キャリアデザイン」の講義を担当する小原 祥嵩 客員准教授と、「サステイナビリティ学」、「開発学」の講義を担当する工藤 尚悟 准教授との共同研究のリサーチアシスタントとして携わったことです。地方分散型の製造?販売、地域の遊休資産を活用した生産プロセスに関するリサーチで、そこで着目したのが「キノコ」でした。秋田県はしいたけなどの菌類の生産量が全国トップレベルですが、しいたけの栽培に使用された菌床が毎年大量に廃棄される現状があります。その解決策として、廃棄される菌床を有効活用する取り組みが2022年2月から始まりました。廃棄される菌床を多孔体に加工することで、発泡スチロールの代替品として緩衝材や断熱材として利用できるようになりました。ローカルとグローバルの間
秋田県出身の私は、高校までは「将来は都会に行くだろう」という漠然とした将来像を持ちながら育ちました。一方で、「それでも秋田でやれることがあるのではないか」「まだチャンスを見つけられていないのではないか」という思いも持っていました。
そんな中で出会えた秋田県内の廃菌床を再利用するというテーマは、「秋田らしさ」「日本らしさ」というローカルな側面を持つと同時に、世界各国が共有する環境問題の解決、汎用性のある新しい技術というグローバルな側面もあり、まさに自分が探していたものだと感じました。2カ月のリサーチアシスタントが終了したあとも、秋田県五城目町を拠点に事業展開を行っている小原先生の会社でインターン生として継続して参加し、緩衝材の開発に携わりました。ただ、試作品をつくるまでの道のりは簡単なものではありませんでした。性能面で、発泡スチロールのように密度が小さく多孔質のものを作ることを目指しましたが、思い通りのものはなかなかできません。多孔質という面からイースト菌を練り混ぜて発酵させる方法に着目したり、他の植物由来の材料を調べたりしながら試行錯誤を繰り返しました。地道にこつこつと、体と手を動かしてものをつくる作業は自分の性格にも合っていて、楽しいと感じられたから続けられたのだと思います。
若者チャレンジの概要
2022年の7月に「若チャレ」を知り、エントリーしました。この事業は、秋田県の若い人たちが持つビジネスアイデアの実現を資金面、経営面、実務面でサポートするもので、初期費用の調達や実用化に向けた実務的なアドバイスなどが受けられます。採択までのスケジュールは、7月に1次書類審査があり、通過者はワークショップや個別メンタリングが受けられ、10月の2次審査を経て、12月のプレゼンテーションによる最終審査で採択者が決まるという形です。私のメンター(個別メンタリングの担当者)はベテランの中小企業診断士の方で、実務経験のない私に対して具体的なビジネスプラン、事業ビジョンのアドバイスをくださり、それを参考に数カ月をかけて準備しました。2次審査を通過した人は10名程で、最後の1カ月程は、さらに企画を練り、最終プレゼンテーションの準備をしたので忙しかったです。多くの方々が事業の相談に乗ってくださいました。1人では、若チャレでの採択どころか、プロトタイプまでの進展すらなかったと思います。悩んだり不安を感じたりした時期もありましたが、その全てが私にとっては幸運であったと感じています。
ぎりぎりで出来上がった試作品
実は、若チャレのエントリー申し込みの段階では、試作品もできていない状況でした。2022年2月から3月末までのリサーチアシスタントの期間は、まだ廃菌床を使用しておらず、海外の先行企業に倣い、自分でキノコを栽培し、マテリアルの試作に挑戦していました。しかし、真冬にキノコは育ちません。そこで、押し入れに大きめの発泡スチロールを用意し、培地のおがくずと米ぬかを詰めて、地道に毎日湯たんぽを入れ替えながら温度計を頼りにキノコを育て、試作品をつくっていました。
色々なご縁があり、秋田県立大学木材高度加工研究所の足立 幸司 准教授のもとを訪ねる機会をいただきました。成果物を持ち込み、将来的には廃菌床で発泡スチロールのようなものを作りたいという相談をしたら、実際に手を動かしてものをつくっていることに感心していただき、技術的なアドバイスをくださいました。それからは、五城目町にある古民家で毎日サンプルの制作と記録を行う日々が始まりました。月に1回程度、できたものを足立先生に見せに行きアドバイスをもらい、次の試作に反映するという繰り返しでした。若チャレの最終プレゼンテーションの2週間前にやっと、発泡スチロールとの比較検証結果が得られました。基本的な性能は劣るが、実用化が無理なほどではない、という数値は、この取り組みの将来性が見えた瞬間でした。
採択事業として評価されたと感じる部分
廃菌床は今までもストーブの燃料などに活用されたことはありましたが、身近で実用的なものに有効活用するという新しい試みが、今回は評価されたのかと思います。また、若チャレの最終プレゼン会場に、ようやく出来上がった試作品を持参し、審査員の皆さんに試作品を配って、実際に手で触れてもらうことで説得力が増したと思います。「秋田らしさ」と「先進性」という側面も評価され、若チャレ事業の中でも補助額の大きい「特例枠」に選ばれました。持続可能で環境にやさしい事業をしているという面が評価されたことがすごく嬉しかったです。この取り組みはまだ始めたばかりですぐに実用化ができるわけではないので、長い道のりになると思いますが、このような再利用の技術はこれからも発展していく分野だと思います。
今後の抱負
若チャレの事業に採択されてからは、海外視察や試作に取り組んでいます。アメリカ?ニューヨークへ視察に行った際、キノコを活用したサステイナブルな建材製作の先駆者であるDavid Benjaminさんを訪問する機会がありました。Davidさんは、キノコと繊維質を混合してつくった完全生分解可能なレンガを開発していて、そのレンガを用いてつくられた「Hy-Fi」というパビリオン建築はニューヨーク近代美術館にて展示されるなど、サステイナブルな技術開発が世界的にも注目されていることをひしひしと感じました。
現在はマレーシアに留学しながら、定期的に若チャレの採択者と事務局とのオンラインミーティングに参加して情報収集に努めています。今後も様々なご縁を通じて、マレーシアのペナンでキノコ菌床をギフトボックスに加工している技術についてのヒアリングや、今後の開発についてアドバイスをもらえそうな方々を訪問する予定です。今までは五城目町の古民家で制作に取り組んできましたが、夏に帰国したら足立先生のご協力をいただいて試作品の制作も進められそうです。今年の1年はおそらく今までで1番、目的をもって多くの人と出会う年になりそうです。
まだまだ先のことはわかりませんが、同世代が秋田に残って事業を行う基盤を作れたら、そして、秋田を発信源として、海外展開も視野に入れられたらと思います。とにかく修行をして、秋田に恩返しができるようになりたいと思っています。1年前の私は、少しも今の自分の姿を想像していませんでした。今後エントリーを検討しているAIU生に伝えたいこと
やりたいことに全力で挑戦する学友、数々のインターン企業、イキイキと働く大人たち、応援してくれる家族など、私たちはたくさんの人たちに支えられています。AIUには実践の場が豊富に用意されているので、まずは自分から積極的に行動して、なにかを思いついたら周囲の人に相談してみるのがいいと思います。補助金制度は探せば結構ありますし、秋田だと応募者が少なめというチャンスがあるかもしれません。また、五城目町には幅広いコネクションや知識を持っている人たちがいて、相談しやすい環境があると思います。AIU生は全般的に、1年次は環境や言語が全然違うキャンパスで授業と生活に慣れることに忙しく、2年次はサークルの中心的存在で留学準備に取り組み、3年次は留学、4年次は就活という流れの中で、それ以外のことをする余裕があまりないかもしれません。しかし、世界に視野を広げて、4年で卒業することにこだわらないで研究やインターンに取り組んでいる学生も多いです。また、企業も、卒業の時期が延びても実績を認めてくださり、就職の不利にはならないようです。若者の数も少ないので「大学生」というだけで秋田ではさまざまなチャンスが待っています。私も帰国後は採択された事業に集中するために休学をする予定です。今年度の目標は成果物を創りだして、応援してくれる人にその成果物を見ていただくことです。これから何が起きるかわかりませんが、一つひとつ、壁を乗り越えていきたいです。